真実が大事

地球の温暖化が進んでいるのか、桜も散ってしまい、昼間は半袖でないといられない今日この頃、皆様いかがお過ごしのことでしょう。でも、春はやっぱり気持ちいいものです。春といえば…。

オペラ第2弾

BTI44号では、オペラの話をしました。ついでに今月もオペラでもと思い、春にちなんだ、私の好きなことでも書いてみましょうか。

当時、ヨーロッパ音楽の題材として最も取り上げられていたのが、前回のシェークスピアと、ドイツのシラー、ゲーテでしょう。そのゲーテに「若きウェルテルの悩み」という作品があります。この作品を題材としてオペラを作ったのがフランスの作曲家マスネです。「ウェルテル」。これがこのオペラの作品名です。

ロッテとウェルテル

大法官の娘ロッテはアルベールと結婚をひかえています。アルベールの何日もの留守の間、ロッテをエスコートしていたのがロッテの従兄弟ウェルテルです。ウェルテルはロッテが婚約していることを知りながら恋に落ちてしまい、ロッテも、ウェルテルに恋心を抱いています。2人が舞踏会から帰ってくると、2人の現実が待っています。アルベールの突然の帰郷でした。

人妻となったロッテに注がれるウェルテルの恋心。愛を告白するウェルテル。もう会ってはいけないと苦しみながら別れるロッテ。それでも、クリスマスの再会を願ったロッテ。感情の複雑な動きですね。

クリスマスの夜

そして、クリスマス。ウェルテルからの手紙を目を赤く泣きはらしながら何度も何度も読みかえしていたロッテ。そこに、もう二度と会うまいと堅く心に決めていたウェルテルが、募る想いに負け、帰ってきます。

ここで、このオペラの最大の見せ場、ウェルテルが以前、愛するロッテに訳して贈った「オシアンの歌」が登場。ウェルテルは、この3世紀アイルランドの盲目の老詩人オシアンが書いたといわれる詩に自分の愛を託し「春風よ、なぜ私を目覚めさせるのか」と歌います。

「オシアンの歌」

春風よ、なぜ私を目覚めさせるのか。
私は自分の顔にあなたの愛撫を感じる。
しかもなお、
嵐と悲しみの時が近づくのを感じるのだ。

春風よ、なぜ私を目覚めさせるのか。
私のかつての栄光を思い浮かべながら。
明日は谷間に旅人がくるだろう。
そして彼の目はいたずらに私の輝きを探すだろう。
しかし、彼らは、ただ悲哀と不幸を見出すだけだろう。

ああ、春風よ、なぜ私を目覚めさせるのか。

ああ、ウェルテル!!

ウェルテルは感情が爆発し、ロッテを抱きしめます。ロッテは心とは正反対にこれを必死に拒否します。さようなら永遠に。ロッテは泣きながら走り去ります。ウェルテルはロッテの夫アルベールの拳銃で自殺します。

アルフレート・クラウスの名唱

冷静に考えれば、「アホ」の一言で、終わってしまうかもしれません。でも感動してしまいます。このウェルテルを、つい1年程前に亡くなったテノールのアルフレート・クラウスで聴いて下さい。ウェルテルの愛、そして嘆きを、ここまで端整に、しかも感情豊かに歌える歌手は彼しかいません。今流行の3大テナーなど引っ込めです。

歌手の中には、自分の歌うところばかりおさらいして、いい声張り上げて終わり。管弦楽の動きなどお構いなし。
「こいつ、まったく分かってないな…」という歌手も結構います。
クラウスは、毎日オペラのスコア(全部載ってる楽譜)を研究し、管弦楽の細かな動きも、すべて理解していたということです。だからこそ、オペラが、歌い手の声張上げ大会にならずに、様式感のしっかりした舞台、そして、ドラマになったのでしょう。

BTI44号のマリオ・デル・モナコも、ただの音楽劇であるオペラを、真実のドラマにしたテノール歌手です。 彼も、休憩中はスコアばかり読んでいました。

亡くなる2年程前のアルフレート・クラウスを舞台で聴いたときの感動は、今でも忘れることができません。聴いていて、涙が出たのは、多分、これが最初で最後になるでしょう。

真実を育もう

我々はともすると、自分のやることだけを見てしまいがちになります。まわりの動きなどお構いなし。知らぬ間に視野の狭い自分になってしまった。なんてことがたびたびあります。これでは、ことを達成することはできても、いいものにはならないでしょう。

シューベルトの未完成交響曲は最後まで完成はしませんでしたが、音楽は、彼の感情のすべて語っています。彼の心の真実は伝わりました。

私も、彼らのようにとはいかないまでも、ただ仕事を仕上げたという事実だけでなく、気持ちをこめて、自分の真実をはぐくみ続けたいと思う、今日この頃です。

BRAIN TRUST INFORMATION  No.45

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