ライオンにて思ったこと

10.9.25 BTI.No.115より

いやー暑かったですねー。みなさんいかがお過ごしでしょうか。この猛暑の夏は、日本列島に高気圧が二重にかぶさっていまして、まさに「ビニールハウス」に入っているのと同じような状態だということでした。日本列島を促成栽培してどうなるんでしょうか。促成栽培はせいぜい「なす(○○県)」「ピーマン(○○県)」ぐらいにしてもらいたかったなー(空欄の県名を埋めなさい。正解は授業にて)。

渋谷は人が多すぎる

さて、8月末の土曜日、夏期講座の最終日のことですが、故あって南青山に出かけてきました。用事を済ませ車に乗ったわけですが、南青山といえば渋谷の近く、しかも渋谷にはこの10年は足を踏み入れていない。そこで、このくそ暑い中、久々に渋谷に行ってみようという気になり道玄坂に向かいました。人の多いこと多いこと。何でこんなに暇人が多いのか。かく言う私もそのうちの一人なのにそれを棚に上げて「うざいやつらだ…」などと思っているわけでしてはい。

道玄坂の「梅蘭」

まず、その道玄坂に新しく、とは言っても10年前にはなかっただけですが、「梅蘭」という中華料理屋に入りました。昔、痩せてかっこよかった(?)若い頃、よく60~70歳くらいの元美しい女性たちと横浜に行きお食事なんてしたものでしたが、その当時中華街に「梅蘭」という変わった焼きそばを食わせる店がありここがうまかった~。ここの支店がいつの間にか渋谷の道玄坂に出来ていたようなんです。やっぱり焼きそばは最高でした。うまかった~。懐かしさがこみあげてきましたよ。あの頃は若かったなー。

知る人ぞ知る名曲喫茶

さて、お次はもっともっと若かった頃です。中1の頃、1年上の柔道部のだるまのような体型の先輩に連れられて、道玄坂にあるヤマハに楽譜を買いに行ったのが渋谷通いの始まりでした。その先輩はその後、東京藝術大学のピアノ科に合格し、今はピアニストとして活躍しており、同じく東京藝術大学のデザイン科に合格した私の姉と結婚するわけで、私の義兄になってしまった…。

あるとき先輩(義兄)が「面白いところに行こうぜ」と言って、いかがわしい店の並ぶ道玄坂の百軒店を通り抜け連れて行ってくれたところが、知る人ぞ知る昭和元年から続く名曲喫茶「ライオン」でした。

暗い店内、正面には巨大なスピーカー。古ぼけた椅子はすべて正面を向いている。目をつぶって曲に合わせ指揮を振っているじいさん、楽譜を見ながら曲を聞いている若い兄ちゃん、腕を組みじっと動かないサラリーマン風中年。誰一人として話をしていない。店内は、クラシックの名曲が響き渡っているだけ。苦いコーヒー一杯で3時間はいたでしょう。感動しました。感動とともに、なにか大人になったなー、とか思ったりして帰宅後も興奮冷めやらぬ状態でした。

感動

そして今回久々の「ライオン」。ドアを開けるといきなりの20世紀最高のソプラノ歌手マリア・カラスの歌声です。声を聞いただけでわかる歌手なんて、マリア・カラス、レナータ・テバルディ、マリオ・デル・モナコ、アルフレード・クラウスそしてグンドゥラ・ヤノヴィッツくらいでしょう。今はそんな歌手はいませんけどね…。

ライオンは昔のまんまです。渋谷は1年もたつとわからなくなるというほど、新旧の入れ代わりがはやいのですが、この店だけは昔のまんまでした。懐かしいー。二階席にあがりアイスコーヒーを飲み、巨大なスピーカーから流れるマリア・カラスが歌うベルリーニの「海賊」を聞く。感動です。いきなりのマリア・カラスにも感動ですが、それ以上に昔のままの姿で自分を迎えてくれた「ライオン」に感動しました。

昔は良かったなー。この「ライオン」に通っていたことが私の青春だったんだー、という思いが溢れてきて感動のあまり涙してしまいました。

青春はあったのか

それにしてもこの夏はつらかった。朝から晩までBRAIN の授業は毎年のことですが、今年は珍しく「バカがひく」夏風邪などをひき、体調悪い上にこの暑さ…。

そういえば、大学出てからというか大学在学中から、勉強・仕事・留学など休む暇なく前に進んできて、知らぬ間にこの歳になり、この歳になっても休みもまったくといっていいほどなくBRAIN です。自分には青春はあったのか、などと考える余裕もなかったなー。こんな思いが、今年のつらかった夏休みを終え、久しぶりに訪れた「ライオン」で溢れ出てしまったんですねー。とことん落ち込んで寂しくてどうしようもなくなったんですよーーー(泣)。

夕陽

遠藤周作のエッセイに、「夕方、電車に乗って外を見ていると、たまに子供を抱いた母親が外に出て何もせず夕陽をぼーっと眺めているのを見かける。その光景を見ると自然に涙が出てくるんだよなー」とありました。作家の佐藤愛子は「女は一日に一度必ず、どんなに幸せな家庭であっても、この生活でよかったんだろうか、と思うときがある」と書いています。

夕焼け空、西に沈む夕陽を見て「あー」とため息をつく。こんなことってあったでしょ皆さん。幸せなのになぜか寂しい瞬間ってあったでしょ皆さん。人生、夕陽が沈むかのごとく枯れ始めるときに思う寂しさ。あるでしょ、ねー。「うちはいつも幸せだもーん」とか言う能天気の方々はこの際ほっときます。

マーラー生誕150年

さて今年は、交響曲全10曲と歌曲で有名なボヘミアの作曲家マーラーが1860年に誕生してから150年になります。それを記念していろいろなレコード会社からマーラー全集なるものが発売されてまして、私もイギリスEMIとドイツ・グラモフォンから出ているマーラー全集を買ってしまいました(激安!!!!)。

驚いた演奏がありました。昔30年ほど前にレコードで持っていた演奏があったのですが(ちなみにレコードは全部処分してしまいました…貧乏だった頃、お金に換えました。今もビンボーですが…)、当時はまったく感動もなく、ほとんど聞かなかったレコードでした。30年ぶりにその演奏を聴いてみると演奏開始3秒で「なんだこりゃ!!」と、すぐに初めに戻って3秒聞く、また初め戻って3秒聞く…。何回もこれをくり返してしまいました。この冒頭たった3秒で信じられないほど感動してしまったのです!!

曲は交響曲第6番、日本では「悲劇的」と言われています。イギリスの名指揮者Sir.ジョン・バルビローリ(Sir.はイギリスの貴族の称号ですので念の為)がニュー・フィルハーモニー管弦楽団を指揮した演奏です。

唸る英国貴族

第1楽章の出だしから、これでもかというほど遅いテンポ。普通テンポが異常に遅いと、曲も間延びして演奏自体空中分解してしまうことが多いのですが、そんなところは微塵もない! チェロとコントラバスが唸りながらフォルテッシモでとことん遅く、しかしとことん強烈に八分音符を刻む。次のトゥッティ(全合奏)の強烈なフォルテシシモには、なんと英国貴族バルビローリの唸り声までが入るんです。

80分ほどかかるこの曲を一気に聴いてしまいました。あー、初めの3秒は20回はくり返して聴きましたが…。車の中でしか音楽を聴けるところがない私は、結局、車で奥多摩の方まで遠回りして全曲聴いてから帰宅しました。

「とき」の力

なぜ若い時は感動の欠片もなかった演奏がこの歳になって(はたちでしたっけ…)異常な感動をもたらしたのか。これは「年月」「月日」、つまり「とき」の力なんでしょうね。よくあることじゃないですか。昔はまったく理解できなかったことも年をとると「あーそういうことだったんだなー」という具合にわかってくる。そんなことは日常生活や対人関係、その他もろもろの事柄にありますよね。

生徒たちの勉強だってそうです。去年はまったく出来なかったところが、今になってみるとわかるようになる。こういうことは山のようにあります。

だから、初めから説明説明で一つ一つ丁寧に教えることって疑問なんです。教師がしっかり丁寧に説明すれば、その場で必ず全員が理解できますか? もし、そうだったら塾なんて要りません。学校だけで充分でしょう。勉強なんていくら説明しても理解できないことはたくさんあるんです!!

脳を成長させる

じゃあ、どうすれば理解できる? 脳は、身体の成長と同じように、だんだん成長してくるものです。今、説明しても理解できなかったということは、まだそこまで脳が成長していない。それなのに無理に教えまくっても無駄ですよ。だから高校の先取り学習なんて意味ないんです。いろいろな体験・経験を通して身体が成長するとともに脳も成長するんです。

勉強で言えば体験・経験とは、いろいろな勉強をすることですね。だから今わからなかったから、来年まで勉強を一切しないで待つ、では脳は成長しない。わからなかった問題を考え続けるのではなく、その科目の別の単元を勉強したり、はたまたまったく関係のない他の科目の勉強をすることで、別の方向から脳が成長し、そして1年くらいたつと、その脳の成長に上手く乗っかって前にわからなかった問題がすっと理解できるようになるわけです。

子供に暇を与えてはいけない!!

突然、勉強の話になってしまいましたが、若い頃、色々なことに追いまくられて、青春などあったのかなー、などと言っている私が間違いだったんです。色々なことに追いまくられていたからこそ、いろいろな体験や経験をすることができた、そしてその体験や経験のおかげでこの歳になって、昔よりもさらに大きな感動を味わうことが出来たのかもしれません。あー、バルビローリのマーラー第6交響曲にこの歳で再び巡り合えてよかったなー。

BRAIN の生徒たちもまだまだ若い。「疲れたー」「めんどくせー」などと四の五の言ってる暇はありません。ゆっくり休もうなんて言ってる場合じゃありません。とことん走り回って追いまくられていろいろな経験を積んで成長していこうじゃありませんか。そして人間力を高めていきましょう。